人間主体主義(Human-centric)なテクノロジーのあり方とは?

wasabi
Build My Own Empire
6 min readApr 29, 2020

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今回はこのブログのテーマになっている「人間主体主義(Human-centric)」という概念について書いてみたいと思います。

現在私たちが利用するインターネットサービスの多くはデータエコノミー上中央集権的な構造をしています。SNSを利用する際に、個人情報を入力し、その情報は企業が有するサーバーに保存されます。企業はその個人情報から個人の行動パターンや趣向を分析し、パーソナライズした広告を売つことでユーザーが商品を購買し、結果として広告収入を得ています。

このモデルに関して「自分の興味のあるものをピンポイントで紹介してくれるから便利だしありがたい」と考える人もいると思います。しかし、これを認めることで見えにくくなっている点が「トラッキング(追跡)」や「監視」をどう捉えるかという倫理的な側面です。

下の図を見てもらうとわかりやすいのですが、現在私たちが使っているサービスは左側の構造になっています。FacebookやGoogleなどが真ん中になっていてオンライン上での個人情報のコントロール権はユーザー側にはありません。どんな情報がどんな経路で誰に何のために使われているのかが見えないのです。

SSI Ambassador
An introduction to Self-Sovereign Identity (by SSI Ambassador) : https://www.youtube.com/watch?v=djhYZZ3CkuM

人間主体主義(Human-centric)という考え方はこうしたデータエコノミー上の不均衡に対するデータアクティビスムから生まれた言葉です。Human-centricなデータエコノミーが目指す構図はこの図の右側にあるように、ユーザー(You)が中心となり、各種のサービスをどのように使うか、自分のデータがどのように使われるのか了承の元で誰にどのデータを渡すか決めるコントロールを取り戻すことです。

この図はブロックチェーン技術の1つである「SSIテクノロジー」を解説したものなのですが、私がブロックチェーンに可能性を見ている1つの理由はこうした考え方が基盤となっているからです。ただし、Human-centricという考え方はブロックチェーンに限定された概念ではなく、どちらかといえば市民によるデータアクティビズムから派生した包括的な概念と捉えられます。

Human-centricの概念が注目を浴びている一例として、もっと身近なところでいえば「最近、パスワード多すぎて覚えられないわ〜」問題が挙げられます。

様々なサービスをインターネットで利用できる利便性を享受している一方で、サービスを利用するたびに長いパスワードをそれぞれプラットフォームごとに分けて使う必要が出てきています。単純な話、「こんなにたくさんの長いパスワード覚えられないよ」と感じている人も多いのではないでしょうか?

このTEDトークでは「本当にパスワードというやり方がセキュリティを守るためにもっとも良い手段なのか?」という問いを投げかけています。

インターネットセキュリティ発展の歴史

The Emergence of Human-Centric Information Security | Bin Mai | TEDxTAMUSalon
The Emergence of Human-Centric Information Security | Bin Mai | TEDxTAMUSalon: https://www.youtube.com/watch?v=8nbUAVH-0vo

TEDスピーカーのBin Mai氏によれば、インターネットでのセキュリティの始まりはSTEM分野の科学者やエンジニア、数学者などによって始まりました。暗号化技術やアルゴリズム、安全なプロトコルを考え出したのはこうした人々ですね。つまり「技術主体(Technology-centric)」でした。技術を中心として、それに即した形でセキュリティの方法が編み出された結果、今のパスワードシステムがあります。

今ではインターネットが広く商業的に使われるようになり「商業主体(Economic-centric)」になっています。私たちが利用している多くのインターネットサービスに即した形に対応した結果、「パスワード多すぎて覚えられない問題」が発生しています。数多くのパスワードを違うプラットフォームごとに覚えるというのは、人間にとって現実的に難しいことです。ましてやこれからインターネットがさらに発展を遂げ、より多くの人がより多くのサービスを利用していくことになる前提で、私たちにとって本当により良い方法は何かを探していく必要があるでしょう。

The Emergence of Human-Centric Information Security | Bin Mai | TEDxTAMUSalon
The Emergence of Human-Centric Information Security | Bin Mai | TEDxTAMUSalon:https://www.youtube.com/watch?v=8nbUAVH-0vo

そこで今注目されているのが「人間主体(Human-centric)」なテクノロジーのあり方です。これは「人間が現実世界で採る意思決定」に即した形で人間にとって現実的な方法を考えていくアプローチです。面白いのが、Human-centricなあり方を考えていく上で重要となる学術分野に心理学、神経学、行動経済学、社会学などが挙げられていることです。今後AIが進化し、人間にとってより高度なスキルとなるものが「人間」に即した分野になっていく傾向がここでも見られますね。

白黒がつけられないことを知る

Human-centricという概念を知る上で重要になってくるのは、この考え方が今までのやり方を一掃し、全てがHuman-centricであるべきという主張ではないということです。Human-centricな考え方が全てを救うヒーローではありません。何かと持ち上げられがちなブロックチェーンに関しても同じです。「自分が何を必要としているのか」という自分のニーズを知って、自分のコントロールをどこに持つのか、そしてどこに「持たないのか」という選択を積極的にするという考え方が新たに広がっていくということなのだと私は考えています。

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